最高裁判所第三小法廷 平成6年(行ツ)176号 判決 1997年2月25日
東京都台東区鳥越二丁目一四番五号
上告人
信入院
右代表者代表役員
渡辺一雄
右訴訟代理人弁護士
長谷川正浩
東京都台東区蔵前二丁目八番一二号
被上告人
浅草税務署長 佐々間正
右指定代理人
泉本良二
右当事者間の東京高等裁判所平成五年(行コ)第一三九号法人税更正処分取消請求事件について、同裁判所が平成六年五月二五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
一 本件上告を棄却する。
二 上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人長谷川正浩の上告理由について
原審の適法に確定した事実関係の下において、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に基づき原判決の法令解釈の誤りをいうものであって、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男 裁判官 尾崎行信)
(平成六年(行ツ)第一七六号 上告人 信入院)
上告代理人長谷川正浩の上告理由
一、一審判決は
1、借地権を設定する行為は
不動産販売業ではなく
不動産貸付業である
として(一審判決一九丁うら以下)、
2、その場合に収受する一時金がキャピタルゲインとして非課税になるかどうかを判断した。(二二丁以下)
公益法人が、自己の所有土地に設定されている借地権を消滅させたうえで、新たに土地譲渡類似借地権を設定した場合には
旧借地権に対応する一時金は、収益事業活動により得られた収益であるとしてキャピタルゲインとして全額非課税としなかった。
二、これに対し上告人(控訴人)は原審において本件借地権設定は堅固な建物所有を目的とするものであり、旧借地権は非堅固な建物所有を目的とするものである。借地権の目的が後者から前者に変更されたのであるから、その条件変更料相当分の一時金はキャピタルゲインとして非課税とすべきであり、その金額は更地価格の一割に相当すると主張した(原審における上告人(控訴人)の平成五年一二月六日付準備書面)。
三、これに対し原審は、
1、本件の借地権付建物売買契約における売買代金は
「これを文言どおりに解すれば、本件一時金は、建物の売買代金と借地権を新たに設定した対価(権利金)である」
としながらも、
2、「総体的実質的にこれをみるとその法形式どおりに控訴人(上告人のこと)が幸江及びバウルーから借地権付建物を買い取った時点で幸江らの借地権は混同によって消滅し、その後控訴人(上告人のこと)から島崎工務店に対して新たに土地譲渡渡類似借地権を設定したものと解するのは形式的にすぎるものであって、取引の実態に治わない」とし、
3、「実質的には一連の取引は幸江及びバウルーから島崎工務店への借地権付建物の譲渡であると見ることが出来る。」
4、「右一連の取引の主眼は、本件土地の賃貸借契約の内容を変更して、島崎工務店が新たに賃借人となり、筒井建物及びバウルー建物は取り壊し、堅固な建物を新築してこれを借地権とともに第三者に譲渡することを控訴人が承諾することにあったと解することができる。」
という。
5、そして、本件売買代金たる一時金三億七〇〇〇万円のうち、幸江及びバウルーが受領した二億七二〇〇万円を控除した九八〇〇万円は、堅固な建物を建築するための承諾料と島崎工務店が借地権を転売(譲渡)する場合の名義書替料であるとし(原判決三七丁おもて)、
6、右の一時金は法人税基本通達一五-二-一一、(一)における土地譲渡類似借地権を設定する場合における「その貸付により収受する権利金その他の一時金」ではなく、同通達一五-二-一一、(二)にいう「土地若しくは建物の貸付けに係る契約の更新又は更改により収受するいわゆる更新料等の額」であると見るのが相当である。
とした。
7、右のとおり原審は上告人と島崎工務店との間の借地件付建物売買契約における売買代金を建物代金と借地権設定の対価とみないで、
「一連の取引を法律的実質的」にみて幸江及びバウルーから島崎工務店への借地権付建物の譲渡と上告人によりその譲渡と目的を変更する承諾であったと考えて、法人税法基本通達一五-二-一一、(一)にいう(権利金その他の一時金)ではなく同(二)にいう契約の更新又は更改により収受するいわゆる更新料等」であるとしたのであった。
四、上告理由第一
1、原審は
「幸江及びバウルーと上告人との借地権付建物売買」と
「上告人と島崎工務店との借地権付建物売買」
という法形式を全く無視して
「総合的、実質的にみて」
これを更改契約が存在したのと経済的に同一であるとして経済的実質的によって課税してもよいとする。
2、なるほど一連の取引の経済的実質は原審のいうとおりであろう。
しかし、経済的実質が同様であるからといって、それが裸で課税要件を構成するものではない。
我が税法は「実質的所得者課税の原則」を採用しても(法人税法一一条)
「実質的課税の原則」を採用してはいないのである。
3、しかも、「実質課税の原則を理由にして税法の格別の規定がないのに、私法上有効に成立している法律関係を課税上否認することは許されない。例えば納税者が「売買」という行為を適法に有効に行った場合において、税法の格別の規定がないのに、課税上「贈与」という行為があったものと認定し「贈与」関係を前提ににして課税することは許されない(北野弘久編「現代税法事典、中央経済社」一九頁)同様に二つの借地権付建物売買契約を幸江及びバウルー並びに上告人、島崎の三者で更改契約をしたものとしてこの更改関係を前提にして課税することは許されないのである。
五、上告理由第二
1、上告人らが採った本件取引の法形式を前提とする限り、本件売買に伴う代金は土地譲渡類似借地権設定に伴う一時金であり、少なくとも目的変更料相当額の更地価格の一割に相当する部分についてはキャピタルゲインとして非課税となる。財産評価基本通達が借地権を評価するにあたって堅固な建物所有目的と非堅固なそれとを区別していないことは通達自身の問題である。裁判所は通達自体には拘束されないのであるから課税の公平と税務執行の安定性を確保する為に通常行われている借地権評価の割合に従って評価するべきであった。
2、仮に本件一時金が原審の採用するように法人税基本通達一五-二-一一、(二)に該当するものであるとしても、その実質目的変更相当分はキャピタルゲインとして非課税である。通達の(一)に該るか(二)に該るかが問題なのではなくキャピタルゲインとして非課税になるのかならないのかが問題なのである。
六、以上のとおり原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令解釈の誤り、法令適用の誤りがあり、ひいては財産権の保証に関する憲法第二九条の解釈を誤ったものであるから上告に及んだ次第である。
以上
(添付書類省略)